現場で画面記録型RPA(WinActor、Power Automate for Desktop等)を使っていると、必ずぶつかる壁があります。今回は、私が実際に経験した課題と、AutoHotkeyへの移行で得られるメリットを解説します。

課題1:手戻りが多く、修正が困難

画面記録型RPAの問題点

画面記録型RPAでは、UIの微細な変更でも動作が止まってしまいます:

  • ボタンの位置が少しずれた
  • 文字サイズが変わった
  • OSアップデートで画面描画が変わった

修正するには、またレコーディングからやり直し...これでは効率が悪すぎます。

AutoHotkeyでの解決策

; ウィンドウクラスベースの安定した操作
WinActivate, ahk_class Notepad
WinWaitActive, ahk_class Notepad,, 3

; 座標に依存しない操作
Send, ^o  ; Ctrl+O でファイルを開く
WinWait, 開く,, 3
Send, C:\work\data.txt{Enter}

ポイント:

  • ウィンドウクラスやタイトルで判定(座標依存なし)
  • キーボードショートカット中心の操作
  • テキストベースなので、修正・レビューが簡単

課題2:文書化とナレッジ共有の困難さ

画面記録型RPAの問題点

  • フローは画像で記録されるため、「なぜその操作をするのか」が分からない
  • 手順書作成に別途時間がかかる
  • 引き継ぎ時に口頭説明が必要

AutoHotkeyでの解決策

; 月次売上データの自動集計
; 作成者:坂本 | 最終更新:2025-01-10

F1::
    ; 1. 元データフォルダから最新ファイルを取得
    SourceFolder := "\\server\売上データ\月次"
    Loop, %SourceFolder%\売上_*.xlsx {
        if (A_LoopFileTimeModified > LatestTime) {
            LatestFile := A_LoopFileFullPath
            LatestTime := A_LoopFileTimeModified
        }
    }
    
    ; 2. Excelで集計テンプレートを開く
    Run, "C:\work\templates\月次集計テンプレ.xlsx"
    WinWait, Excel,, 10
    
    ; 3. データ取り込み処理
    ; (以下、具体的な処理が続く)

ポイント:

  • コメントで処理の意図を記録
  • Gitで変更履歴を管理
  • テキストファイルなので検索・置換が簡単

課題3:ライセンス費用と端末制約

画面記録型RPAの問題点

  • 1端末あたり年間数十万円のライセンス費
  • 実行端末の制約(専用サーバーが必要等)
  • チーム拡大時のコスト増大

AutoHotkeyでの解決策

  • 無料:商用利用も含めて完全無料
  • 軽量:通常のWindows PCがあれば動作
  • 配布簡単:.ahkファイルをコピーするだけ

具体的な移行パターン例

Before:画面記録型RPA

  1. アプリケーション起動
  2. 座標(100, 200)をクリック
  3. 2秒待機
  4. キーボード入力「データ.xlsx」
  5. 座標(300, 400)をクリック

After:AutoHotkey

; より安定で保守しやすい形に
OpenDataFile() {
    ; アプリケーション起動(ウィンドウタイトルで判定)
    Run, excel.exe
    WinWait, Excel,, 10
    if ErrorLevel {
        MsgBox, Excelの起動に失敗しました
        return false
    }
    
    ; ファイルを開く(キーボードショートカット使用)
    Send, ^o
    WinWait, 開く,, 5
    
    ; ファイル名入力
    SendRaw, C:\work\data.xlsx
    Send, {Enter}
    
    return true
}

まとめ:移行のメリット

  1. 保守性向上:テキストベースで修正・レビューが簡単
  2. コスト削減:ライセンス費用ゼロ
  3. チーム共有:Git管理でナレッジが蓄積

ただし注意点も:

  • 初期学習コストは必要
  • 複雑なUI操作は設計力が必要
  • チーム全体のスキルアップが前提

次回は、具体的な移行手順とチェックリストを紹介します。


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Udemy講座: 「画面操作型RPAからの移行ガイド」(企画中)では、WinActor/PADの具体的なフローをAHKに写像する手順を解説予定です。

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